2018.12.27

GALLERY HOUSE MAYA「装画コンペ Vol.18」

書籍の装画等で活躍するイラストレーターの登竜門となっている、GALLERY HOUSE MAYAの「装画コンペ Vol.18」の審査員を務めました。
課題作品の中から最低1冊を選んで、その本の装画を描くという形式のコンペ(ただし、2点以上での参加の場合は、他の出品作は好きな本を自由に選択可)。今年の課題作品は以下の通りです。

●小説
有島武郎『一房の葡萄』
萩原朔太郎『猫町』
カレル・チャベック『ロボット』
ギ・ド・モーパッサン『女の一生』

●児童文学・童話
グリム兄弟『白雪姫』
シャルル・ペロー『長靴をはいた猫』

●時代小説
池波正太郎『人斬り半次郎 幕末編』
藤沢周平『本所しぐれ町物語』
泉鏡花『天守物語』

●エッセイ・随筆
レイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』
Mayaコンペ_01

応募者数625名、応募点数1,344点という想像を超える数に圧倒されつつ、応募作品を拝見。
「装画コンペ」であることを強く念頭に置きながら審査を進めた結果、グランプリに選ばれたのは、

ますこひかりさん『天守物語』

でした。この絵は、作品の感想画や挿絵ではなく、「装画」として読者の想像力をかき立てるレベルに達していると感じました。
総合的には、ますこさんが応募されていた複数作品のすべてが装画として高水準なうえ、多彩な表現をされていたことが評価されました。これはすなわち、高い技術力と柔軟な対応力をお持ちということだと考えられます。「この方ならどんなお仕事でもお任せできる!」という信頼感を、審査員全員が抱いたのはすごいことです。
これはともすればプロとしては当たり前で無難な評価のように見えるかもしれませんが、こういう方はクライアントからすると非常に心強い存在です。なぜなら、クライアントがイラストレーターに求めているのは、高い生産力とオーダーへの対応力、すなわちイラストレーター自身の高いポテンシャルだから。まぐれのような「奇跡の一枚」に期待しているわけではないのです。どんな仕事に対しても一定以上のクオリティーで返してくださる方こそが、今求められているイラストレーターだと感じています。

Mayaコンペ_02

坂野の個人賞には、以下のお二人を選ばせていただきました。もちろんほかにもいろいろと気になった作品はあり、苦心の末に選んだ坂野賞です。

坂野公一賞 杉本鉄郎さん『吉原裏同心』(佐伯泰英)
準・坂野公一賞 町田七音さん『症例A』(多島斗志之)

杉本さんの作品には、保守的な表現が好まれるジャンルである時代小説に、王道感を崩すことなく新風を吹き込めそうな可能性を感じました。
一方町田さんの作品は、立体作品の応募が少ない中で存在感を放っていました。今回は、人物造形に物語性を盛り込む表現にチャレンジしているところを評価しました。

各受賞作品は、以下のページからご覧いただけます。

受賞作品 http://www.gallery-h-maya.com/competition/vol18/18sakuhin/

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実は今回の審査には、昨今一般文芸書でも多く見られるようになった「コミック的・アニメ的・ゲーム的」な手法の作品に注目しようと考えながら臨みました。しかし、予想以上にそういうジャンルの作品の応募が少なく、残念に感じたというのが正直なところです。
一方で、写真を加工してイラストレーションに落とし込むデジタルコラージュ作品が何点かあったことに驚きつつ、装画としての可能性を感じました。今後注目していきたいジャンルです。
これは苦言になってしまうのですが、「タイトルが入る・帯が巻かれる・製本される」といった書籍における物理的な約束は、制作の上でもっと意識されるべきではないかと感じる作品が散見されました。あくまで「装画」を描くコンペなので、このあたりのことを意識されると、よりよい「装画」が描けるのではないかと思います。

「売れる装画」「よい装画」とはどういうものか、というのは難しい問いです。今回皆さんの作品をたくさん拝見して触発され、坂野が一装幀者としての経験から「こうすればもっといい装画になるのでは」と感じる「装画心得」のようなものを、審査員講評としてまとめました。ここに全文を掲載いたします。

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「売れる装画」が求められています。出版不況といわれて久しい昨今、特に。では、売れる装画ってなんでしょうか? そんなのわかれば苦労しませんよね。でも「外さない描き方」とか「求められている傾向」などは確実にあります。今回審査を終えて、こうすればもっと良い装画になるのにな~と思う作品が多かったので、僭越ながら一装幀者の経験則から「装画心得」のようなものをお伝えしておきます(ミステリ、エンタメ文芸書基準)。

・「装画で本が売れる」と信じる。
・「良い絵」が必ずしも「良い装画」とは限らない。
・「読む人」「買う人」のことを考えて描く。
・「本が売れたら」それが良い装画。

・「作品内容」に傾倒し過ぎると、マニアックで分かりにくい絵になりがち。
・「ゲラを読み込んでも」答えは出てこないことがある。
・「作品内容を正確に表す」ことにとらわれすぎない。
・「何を見せるか」よりも「どう見せるか」が重要なことが多い。
・「描きたい(モノ・コト)」よりも「描くべき(モノ・コト)」を重視。
・「拘り」「自己満足」を本当に捨てられたら神。

・「超絶個性」とか「めくるめく先進性」は、実はそれほど求められない。
・「コミック絵」「アニメ絵」「フォトコラージュ」は全然オッケー。
・「綺麗な絵」「明るい絵」「分かりやすい絵」は、なんだかんだ好まれる。
・「暗い」「怖い」「キモい」など、ネガティブな表現は求められない限り避ける。
・「モノクロ」は敬遠されがち。
・「サラリと描ける」ように高い技術を蓄える。
・「やってよいこと」「やってはいけないこと」を見極めるためにも、
「製本」「印刷」「デザイン」のことを知っておいて損はない。
・「装画は装幀の一部」。そしてどちらも「本の一部」。

当たり前のことや説教クサイこともチラホラで申し訳ありませんが、坂野が装幀を作る時にも意識している事柄です。ご参考になれば幸いです。

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こちら、MAYAさんのサイトにもご掲載いただいております。他の審査員の方の講評もたいへん参考になると思いますので、ぜひご一読ください。

審査員講評 http://www.gallery-h-maya.com/competition/vol18/18kohyo/

Mayaコンペ_04

新鮮な作品の数々に触れて、初心を思い出しました。これからも、イラストレーターの方々と切磋琢磨しつつ踏ん張っていこうと、決意を新たにしました。